小説 夕焼け同盟6

小説 夕焼け同盟6節

押し競饅頭の原理で車内へと入る。慣れているとはいえ、決して好きにはなれない。反対側のプラットホームにあるがらがらの下り電車の車内を羨ましく思う。



下り列車を見ながら、叶うことの無いことは忘れてしまおうと自分に言い聞かせる。その前にそんなことを考えなければよかったんだ。忘れてしまいたいという欲求は忘れてしまうに限るから。本当に好きだった彼女に亭主がいることは知っていた。くちづけで共有する二酸化炭素が多めの空気は麻酔ガスみたいにいろんな難しいことを忘れさせてくれた。湿気のあるパフュームの香りは隣の部屋に眠る幼子の寝息も忘れさせてくれた。

そのあとに残る何十倍もの後悔さえなければ今も二人は一緒にいれたのかもしれない。

そんなことも忘れるに限るんだ。

あのがらがらの電車が行く三つ先の駅にそのひとがいることも忘れるに限る。

だって、あの幼子が無邪気に笑う度に幸せみたいな塊は触れたら何もなかったように崩れさっていくんだ。何千年も置き去りにされていた死海写本みたいに。結局、神様のラブレターは最愛の人が生きている間には届かなかった。

僕の気持ちももう届けるつもりはない。

小説 夕焼け同盟5節
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  by hosimango | 2005-03-22 02:43

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